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妄想散文置き場、時々日記。小説リストは左からどうぞ。(R)は18歳以下は見ちゃ駄目よ☆です。
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2024/11/23(Sat) 22:51:01

「寂しいよ」

 勝手に寝転んだベッドの中から快斗が訴えかけてきた。ちょうど本の中の事件が一段落したところで、あとは探偵が謎を解くだけというあたりだったから俺は顔を上げてやった。そういえばいつのまにか部屋まであがりこんでいた気がする。家に入っていたのはわかっていたが、侵入者が誰かとわかった時点で気を張るのを止めたのでいつ部屋に入ってきたのかは知らない。家に入り込んですぐにこの部屋に訪れたのなら、ゆうに1,2時間は経っているだろう。
寂しいよ、なんていつもより弱々しい響きの言葉だ。珍しい、と快斗の顔を凝視してみれば、どうにも俺を見ていないようだった。視線がどこか遠くへ飛んでしまっている。
なんなんだ一体。 

「死んでしまうかもしれない」 

 瞳は俺をとらえていないが言葉ばかりは切実だ。死んでしまうかもしれない。声だけ聞けば思わず止めたくなる程には苦しげな。
しかしやはり瞳は俺を見ていないのだ。どこともない場所、あえて言うなら天井の電灯の少し横あたりをぼんやりと見つめている。瞼は半分閉じられていて、ピントがちゃんと合っているかどうかすら定かではない。
もしかしてこいつ、相手してもらえないからこんな手に? いやいやそれにしても回りくどすぎる。 

「す、好きなんだよ?」 

 一瞬言葉が止まった。噛んだ、呼吸の場所を間違えた、というような感じではなく、何を言うべきか迷ったようなどもりかただ。どもったとも言えないかもしれない。
しかも疑問系だ。問いかけを期待した問いかけ、それによるクエスチョンマークではなく、疑問系の中の疑問系、「これで良いのか?」といった具合の語尾の上がり方だ。
一体こいつは何をやっているんだろうか。ヒラヒラと目の前で手を振っても反応は無い。目は開いていても、やはり何も見ていないらしい。 

「切ないんだ」 

 にしてもこの声はいけない。だんだんぼんやりとした目も憂いを帯びているように見えてきた。馬鹿らしいことだがそれでもその呆けた顔は拗ねているようにも見えてくる。声の効果は絶大だ。ポツリ、と、落とすように呟くものなので。

 ――寂しい。死んでしまうかもしれない。好きだ。切ない。

 相手しないのなんていつものことで、勝手に入ってくるそっちが悪いのに、何故だか俺が責められているような気になってくる言葉が選ばれている。
言葉が選ばれている? 

「素知らぬふりしないでよ……あ、」 

 言い終わったところでようやく俺に気づいたらしい快斗がパチリと大きく瞬きした。本当に今まで俺が間近で見ていることを知覚していなかったらしい。そう、俺が間近で見ているのを。
いそいそと離れてみながら、俺はあきれた。何をやっているのかと。 

「新一」 

「はいアウト。し、二回目」 

「え」 

 何をやっているのか。
さ・寂しい。し・死んでしまう。す・好きだよ。せ・切ない・そ・素知らぬふりしないで。ただのさしすせそ作文だ。あいうえお作文ならぬ。相変わらず快斗は馬鹿馬鹿しいことをしているだけだ。そして馬鹿馬鹿しい俺も思わず釣られてしまったと。
座り直して本を開く。こういう時はとっとと本の中の世界に戻ってしまうに限る。 

「気づいた? さしすせそ作文」 

 俺が応えないでいるとどうやら拗ねたらしくベッドの上をゴロゴロと転がっている。子供じゃあるまいし、と思ってから、そういやコドモかと思い出した。こういう顔ばかり見ていると忘れかけてしまう夜の顔。いっそあちらの方が大人じゃないかと突っ込みたくなってしまう。 

「母さんが言ってたんだよねえ、自分の気持ちがわからなくなったらさしすせそ作文してみなさいって」

  聞いてもないのにしゃべり出す。いつもの快斗だ。俺は少し安心して印字された文字を読み始める。 

「俺、寂しかったんだなあ」 

 思わず顔を上げてしまった。そうすればニッコリ笑った快斗と目が合って、頁をめくりかけた手が途中で止まった。指から離れた頁がパラパラと捲れていく。 

「これから相手して欲しい時はさしすせそ作文することにする」 

「……勝手にしてろ」 

 言いながらさっき見失った頁を探す自分がちょっと馬鹿っぽい。縋ろうとして足蹴にされた快斗に比べれば、まだマシな方だとは思うのだけれど。




月にユダ http://2shin.net/berbed/

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2009/02/18(Wed) 06:36:00
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