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妄想散文置き場、時々日記。小説リストは左からどうぞ。(R)は18歳以下は見ちゃ駄目よ☆です。
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2024/11/23(Sat) 23:37:40

 高校生探偵がこの世から消え、その代わりに現れた小学生も消え、江古田に一つ喫茶店が出来た。

 

 十一月。寒気は勢いを増すばかりの日々で、黒羽快斗は長いマフラーに顔をうずめた。そろそろ学ランとマフラーだけでは耐えられなくなってきているが、コートを出す手間も惜しい。しかしひょうと寒風が足元を吹き抜けて、快斗はどう押入れをひっくり返せば効率よくコートが取り出せるかを考え出した。
枯れ葉が視界を覆う並木道は、夕方の淡い赤に照らされている。通る人々は皆一様に下を向き、風に首を竦めてノロノロと歩いている。履き潰して底の薄くなったスニーカーは、コンクリートの冷たさをそのまま足の裏に伝えてくるようだった。
――こんな時はあそこに行くに限る。
思い出しただけで鼻歌混じりになる自分に、快斗は呆れながらも足を速めた。クラスメイトにも幼馴染にも母親にも教えていない、秘密の場所だ。
大通りから裏路地に入り更に道を折れ、崩れかけている灰色の階段を下る途中の茶けた壁に同化しそうな古びた扉。触れば軋みそうなそのドアは一見民家だが、その上には板切れで「Cafe」と掲げてあった。
見つけてくれなくて結構、と言わんばかりのその様相の店に興味を引かれ、見つけたその日にそのくぐりにくい扉を快斗は躊躇無くくぐり、以来マスターには顔を合わせれば嫌な顔をされるぐらいには常連だった。
機嫌良く快斗がその扉を開けば、カランカランというカウベルの音とともに静かに暖かい空間が快斗を包んだ。

「いらっしゃいま……、また来たのか」

「一日ぶり、マスター」

 細長い店内には、カウンター席しか備え付けられていない。その椅子もたったの5席しか用意されていないのだ。当然の如く店内には客は居らず、快斗を向かえたのは不機嫌そうなうら若いマスター一人である。カウンターの奥で座り、どうやら読んでいたらしい新聞を畳んで置きいかにも面倒そうに立ち上がり、快斗をあしらうかのようにヒラヒラと手を振った。
薄暗い店内はどちらかというとバーに近い様相だったが、メニューには酒は置いていない。正確に言えば置いてはあるのだが、それすら紅茶に軽く混ぜる程度のものだけだった。曰く、「酒を置くと客が面倒になる」とのことだ。
奥の方では暖炉がパチパチと火花を爆ぜている。ふらふらとそれに寄りながら、快斗はまきつけていたマフラーを取り払い、一つの席に腰かけた。

「いつもの?」

「や、今日はカフェオレで」

「へえ、夜遊びしすぎるなよ」

 交わす会話は親しみのあるもので、きっちりと上まで止められたシャツと黒のタイが大分大人びて見せているものの、マスターも高校生の快斗と殆ど変わらないぐらいの年齢に見える。声も随分と若い――いや、似ているのか? そういえば顔も似ている気がする。と、じっと快斗が見つめると嫌がるようにマスターは背を向けた。ついでのように、繊細な模様のえがかれたカップを手に取り、湯を張った鍋へそれを入れる。マスターの横顔に僅かな翳りを見つけて、快斗は眉を顰めた。

「それは、俺のセリフだな。ねえ、マスター」

 カウンターから乗り出すようなかたちで手を伸ばし、快斗はマスターの髪を軽く引いた。目を瞬かせたマスターに少し機嫌を良くしながら、ポーカーフェイスのまま快斗は寄せた眉をそのままに詰め寄った。

「昨日は何時間寝た? ちゃんと寝てんの? いっつも隈、酷いよ」

「良いんだよ客はそんなこと気にしなくて」

 ひらりと払われた手にムッと顔を歪めながらも、これ以上追求しても無駄な事を快斗は知っていた。払われたまま大人しく席に戻れば、仕方なさそうにマスターは笑う。
それでも、何も言ってくれないのだ。せめてその隈やダルそうな態度を改善してくれれば、快斗だってこんなに胸を痛めなくとも済むのに。
”それじゃあこんなところ来なければ良い”もう一人の自分がそんな風に囁いて、確かにそうだと毎回快斗も頷いている。だけれどこの温かだけれど静かな空間が、(例えばそれは湯の沸く音や暖炉の火の爆ぜる音、器具同士がぶつかる金属音だったり伏せ目に自分のためのコーヒーを用意するマスターの呼吸だったりで構成される、その全てが)、帰り道の快斗をいつだって誘惑するのだ。
そうして今日も此処に居る。

「ねえマスター」

「なんだよ」

「俺の名前、黒羽快斗っていうんだ」

「知ってる」

 定例のように繰り返される言葉がある。マスターの目の下にある隈と同じように。

「マスターの名前は?」

「さあ、なんだろうな。ほら、出来たぞ」

 カチャリ、上品な音を立てて快斗の前に淡い色のカフェオレが差し出される。快斗の一番好きな味のカフェオレだった。フワリと立った湯気と共に、コーヒーの苦い香りが快斗の鼻を擽った。
そっと手に取り、熱過ぎない温度のそれを口に含む。そうして、”いつになったら、”この言葉を、いつも快斗は飲み込むのだ。














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逃げてる工藤と頑張ってる黒羽。
ネタがとまらないので此処に放置。
時間と体力と気力があればまとめて中篇くらいで書き上げるかも。

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2009/01/19(Mon) 00:50:19
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