ガタン。
古泉が突如椅子から転げ落ちて、一瞬部室が静まり返った。「何やってんだ古泉」と俺が突っ込みを入れてようやく部室内に声が溢れ始める。
「ふぇえ、古泉君大丈夫ですかぁ?」可愛らしい声で朝比奈さんが古泉に駆け寄る。「ネジが外れてたのかしらね」こらハルヒ、女の子が机に乗り上げたりするんじゃありません。長門、お前はもうちょっと反応とかいうものをした方が良いぞ。
すみません、といつものうさんくさい笑顔を貼り付けながら古泉が立ち上がる。お優しい朝比奈さんがハンカチを差し出すが古泉は「大丈夫です」とそれをやんわり断った。それで良いぞ古泉。おまえなんぞが朝比奈さんの綺麗で可愛らしいハンカチを汚す権利などこれっぽっちも無いんだからな。
と、ふと視界の中に入ったそれに俺はちょっとため息を吐きたくなった。古泉の制服の背中が汚れている。きっと倒れたときにでもついてしまったのだろう。そういうのは見つけてしまえば何とかしたくなるものが人間というもので、俺はわざわざ立ち上がって古泉の後ろまで回った。ハルヒと長門は動きそうにないし、朝比奈さんのお手を汚させるわけにはいかないからな。うん。
「ほら、汚れてんぞここ」
言いながらパンと背中を叩いてやれば、古泉の体が過剰に震えたような気がして、俺は思わず動きを止めた。
「あ、ありがとうございます、あ、あの自分でやりますから」
なんでそんなにどもってるんだ気色悪い。などという辛辣な言葉は飲み込んで、上着を脱ぎ始めた古泉から一歩俺は離れた。何故かその瞬間に安心したみたいに古泉がため息を吐いた、ような気がした。
何なんだ一体。
気の所為にしても気分が悪い。から、気のせいだということを証明するために俺は一歩古泉に近づいた。ちょうど袖のところが酷く汚れていることにも気付いてしまったのだ。一瞬考えてから、俺は声をかけずに古泉の腕を取った。袖についている汚れを払おうとして、
「……っ!!!」
ものすごい勢いで振り払われた。
「っあ、すいません、ちょっと驚いて、しまって」
取り繕うようにして笑った古泉の顔は、どこか歪んでいる。朝比奈さんは慌てながら「お、お茶、お茶淹れますね!」とポットのあるところまで駆けていってしまった。ハルヒは「馬鹿キョン何やってんのよ」と一言述べたあと、パソコンの画面に目を戻してしまう。長門はさっきから一歩も動いていない。
取り残されたのは呆然としている俺と気まずそうな古泉だけで、その距離はジリジリと離れていっている。古泉が後ずさりしているのだ。笑顔のまま。気持ち悪いなおい。
なんだか非常にムカついたので思い切り一歩近づいてやったら、ビクリと体を震わせて「な、何か?」と弱々しい声で訊ねてきた。「何でもねえよ」と返して俺は席に戻る。ドカリと椅子に腰掛けて古泉の方をチラリと見れば深い深い、深すぎるぐらいのため息を吐きながら首を振っていた。
「何なんだ」なんて、こっちが言いたいセリフだね!
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Refrain「これは恋ではない繰り返すこれは恋ではない」
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挙動不審いっちゃん。きっと椅子から転げ落ちたのはキョンがため息吐いたとか欠伸したとかそういう理由です。あっはっは馬鹿なのは承知の上です。
たぶんこの後いっちゃんは七転八倒してぐるぐるした後に漸く恋心に気付くはず。たぶん。気付かないかも。
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