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妄想散文置き場、時々日記。小説リストは左からどうぞ。(R)は18歳以下は見ちゃ駄目よ☆です。
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(ゴミ箱代わりにしてたから必要ないかと思ったけど手風呂からリンクつなげちゃったから一応……)
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2024/11/23(Sat) 23:06:34

 ガタン。

 古泉が突如椅子から転げ落ちて、一瞬部室が静まり返った。「何やってんだ古泉」と俺が突っ込みを入れてようやく部室内に声が溢れ始める。
 「ふぇえ、古泉君大丈夫ですかぁ?」可愛らしい声で朝比奈さんが古泉に駆け寄る。「ネジが外れてたのかしらね」こらハルヒ、女の子が机に乗り上げたりするんじゃありません。長門、お前はもうちょっと反応とかいうものをした方が良いぞ。
 すみません、といつものうさんくさい笑顔を貼り付けながら古泉が立ち上がる。お優しい朝比奈さんがハンカチを差し出すが古泉は「大丈夫です」とそれをやんわり断った。それで良いぞ古泉。おまえなんぞが朝比奈さんの綺麗で可愛らしいハンカチを汚す権利などこれっぽっちも無いんだからな。
 と、ふと視界の中に入ったそれに俺はちょっとため息を吐きたくなった。古泉の制服の背中が汚れている。きっと倒れたときにでもついてしまったのだろう。そういうのは見つけてしまえば何とかしたくなるものが人間というもので、俺はわざわざ立ち上がって古泉の後ろまで回った。ハルヒと長門は動きそうにないし、朝比奈さんのお手を汚させるわけにはいかないからな。うん。

 「ほら、汚れてんぞここ」

 言いながらパンと背中を叩いてやれば、古泉の体が過剰に震えたような気がして、俺は思わず動きを止めた。

 「あ、ありがとうございます、あ、あの自分でやりますから」

 なんでそんなにどもってるんだ気色悪い。などという辛辣な言葉は飲み込んで、上着を脱ぎ始めた古泉から一歩俺は離れた。何故かその瞬間に安心したみたいに古泉がため息を吐いた、ような気がした。
 何なんだ一体。
 気の所為にしても気分が悪い。から、気のせいだということを証明するために俺は一歩古泉に近づいた。ちょうど袖のところが酷く汚れていることにも気付いてしまったのだ。一瞬考えてから、俺は声をかけずに古泉の腕を取った。袖についている汚れを払おうとして、

 「……っ!!!」

 ものすごい勢いで振り払われた。

 「っあ、すいません、ちょっと驚いて、しまって」

 取り繕うようにして笑った古泉の顔は、どこか歪んでいる。朝比奈さんは慌てながら「お、お茶、お茶淹れますね!」とポットのあるところまで駆けていってしまった。ハルヒは「馬鹿キョン何やってんのよ」と一言述べたあと、パソコンの画面に目を戻してしまう。長門はさっきから一歩も動いていない。
 取り残されたのは呆然としている俺と気まずそうな古泉だけで、その距離はジリジリと離れていっている。古泉が後ずさりしているのだ。笑顔のまま。気持ち悪いなおい。
 なんだか非常にムカついたので思い切り一歩近づいてやったら、ビクリと体を震わせて「な、何か?」と弱々しい声で訊ねてきた。「何でもねえよ」と返して俺は席に戻る。ドカリと椅子に腰掛けて古泉の方をチラリと見れば深い深い、深すぎるぐらいのため息を吐きながら首を振っていた。
 「何なんだ」なんて、こっちが言いたいセリフだね!













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Refrain「これは恋ではない繰り返すこれは恋ではない」

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2007/10/05(Fri) 00:28:53
※古キョンで二人がなんかくんずほぐれつしてます注意!





 ズルリと体内で古泉が滑り抜け出していくのが解った。その排泄感にも似た微かな快感に俺は奇妙な呻き声を上げて体を捩らせる。古泉の熱い息が肌にかかって高らかな音をたてて痛いぐらいに吸いついてきた。首と胸との境目、ちょうどシャツで隠れるか隠れないかの部分だ。どうせつけるなら確実に見えないところにつけてもらいたいもんだと悪態を吐きたいところだが、体内で熱く蠢く古泉が鋭い進入をかましてきて、俺は口を閉ざさなければなくなる。

 ……こういう事をするのは実は初めてではない。数えてみれば3、4回目などというなかなかな回数だ。男同士で不毛に何をやっているのかね、全く。

 始まりは断じて俺ではない。いやきっかけを作ったのは俺なのかもしれないが、しかしこの状況に持ってきたのは明らかに古泉だ。俺はただ、「おい古泉、ここに爆弾があるんじゃないか」と言っただけだ。ご丁寧にもライターを持ってきて爆弾の導火線を探し出しカチリと音をたててライターから火を放ったのは古泉だ。
 御託は良いからとっとと話せって? ああ、あれは何だったっけなあ。そうだ、俺の机に何やら薄い本が入っていたのがきっかけだった。放課後先生に呼び出され、漸く帰れるところになって机に手を突っ込んだところ、それがあったのだ。疑問を持って何の警戒もせず俺はその本を取り出した。何かの説明書か何かを、誰かが間違えて俺の机に入れてしまったんだろうと思ったんだ。しかし実際には、それならば俺の机に入れておくよりもどこかわかりやすい場所に置いておいたほうが良いだろうという俺の親切心をそりゃあもう地べたに捨てられた火の消え掛けた煙草のようにぐりぐりと踏みつけるようなものが入っていた。
 表紙は良かったのだ、表紙は。どこか見覚えのあるキャラクターが右斜め下に鎮座しており、淡いブルーのフィルタがかかって、細かい模様の施されている表紙だった。そこで手を止めなかった俺も悪い。悪いだろうが、やはりそこまで見てしまえば中身が気になってしまうものだろう。パラパラと頁を捲ってから、俺は後悔した。とんでもなく後悔した。そこには男同士の絡み吐く肉体が描かれていたのさ。絵が綺麗で何かこうモザイクのかかっているものを突っ込まれている方が女っぽかったのがまだ救いだった(後に本屋でそれが自分の好きな漫画のキャラクターだったと気付いた時にはかなり落ち込んだがな)。
 こういうタイミングの悪い瞬間に俺の目の前に表れるのが、古泉一樹という野郎だ。
 突如教室の後ろの扉がガラリと開き、「やはりあなたでしたか」といつものうさんくさい笑顔を浮かべて古泉が何の遠慮も無しに俺の傍へやってくる。慌てて俺は持っていた本を隠そうとして、隠してしまえば逆にヤバいだろうと思いなおしてため息を吐いた。「途中廊下を歩いているのを見かけまして」じゃねえよ、もし俺じゃなかったらどう言い訳していたんだおまえは。
 「おや?」と言って古泉は俺の手元を覗きこんだ。そう、問題の薄い本だ。何も言わずに古泉にそれを手渡してやると、古泉は何の躊躇も無く頁をペラペラと捲っていった。一瞬驚きに見開かれた目が、すぐにいつもの色を取り戻してから、俺は口を開いた。
 「誰かが間違えて俺の机に入れたらしい」
 「なるほど、あなたが購入されたものだったのならどういう反応を返そうかと少し迷ってしまいましたよ」
 「俺が買うかよ、そんなん」
 苦笑のかたちに顔を歪めて、いかがわしい本を手に肩を竦める古泉。……なんだか見ていてシュールな映像だな、おい。
 古泉の手から本を取り去り、また俺の机の中に入れなおす。そんな俺の行動に僅かに目を見開いた古泉を見とめて、俺はため息を吐いた。
 「……勘違いすんな、どっかに放置するよか、触らずこのままのが良いだろうが」
 「ふふ、そう言われれば、そうですね」
 「だからこんなん俺が欲しがると思うか?」
 「すみません」と言って、苦笑の顔のまま古泉は顔を傾げた。妙に癪に触ったが無視して、俺はとっとと帰る用意を再開させた。
 「そもそも、理解できない。男同士でヤってるなんて有り得ないだろ、なんでそんな漫画があるんだか」
 いっそ独り言でも良い位の呟きで、言った事に対して俺は古泉からの返答は特に期待していなかった。苦笑のまま聞き流してくれりゃあ良い、ぐらいの呟きだったのだ。筆箱とノートを鞄に詰めていく。明日になって妙な噂が立たんようにとっととこの本を持ち主が持っていってくれることを祈りながら、鞄を肩にかけた。
 振り返ると古泉の顔が妙に近かった。何でそんなマジな目をしているんだ古泉よ。
 「案外、イイのかもしれませんよ?」
 一瞬古泉が何を言い出したのかわからずに、数回瞬いて隙を見せてしまったのがいけなかったのかもしれない。いや、その前の「理解できない~」の発言がいけなかったのか。それとも更に前、古泉にこの本を見せたのがいけなかったのか。
 気付けば教室の床に押し倒されていたという結末だ。

 ハア、と荒い息を首に感じて、そろそろだろうかとどこか遠い場所から観戦している俺の中のもう1人の俺が思った。獣じみた動きの古泉にしがみついてゾクゾクと背筋を這い上がる快感をやり過ごす。
 ムカつくほど長い古泉の指が俺自身に絡み付いてきつく扱かれる。目の前がチカチカとスパークする。
 汗で滑る古泉の肌を感じながら、頭の奥が熱に浮かされていく。
 自然と漏れてしまう声をどうにか耳にしないようにしていると、耳元でボソリと古泉が何かを囁いた。瞬間、体内の快感に直結しているような部位(所謂前立腺というやつだろうか、以前に何か古泉が言っていた気がする)を、思い切り突き上げられて、俺は意識をホワイトアウトさせていた。



 「なんだって俺なんだか」

 行為の後呟いた俺に、「何ですか?」と古泉が顔を上げた。何でも無い、と答えれば、疑問を顔に貼り付けたまま風呂場へ古泉の姿が消える。
 なんだって俺なんだか。心中でもう一度呟いて、けれど答えはでなかった。あるのは結果だけだ。
 (愛してる、なんてなあ)
 ロマンチックというか、最早乙女じみている。そういう言葉を吐く相手は俺じゃあないだろう、と言いたい。
 けれどまあ、それが嘘ではないことはわかりやす過ぎるぐらいだった。振り返ってみてみれば古泉の行動はちょっと成長した中学生だ。いや恋愛に慣れてない親父かとも言える。ふとした瞬間のボディタッチやアイコンタクト、妙に近い距離感。
 と言うか、この行為の始まり自体、そう考えなければおかしいような繋がり方だ。案外、何でも無いような振りをするのが、古泉は苦手だ。
 ざあざあと風呂場から聞こえるシャワーの音に耳を傾けながら、古泉の部屋の真っ白な天井を眺めた。
 (「愛してる」)
 思い返して少し肌がざわめく。聞こえるか聞こえないぐらいかの小さな声で囁かれる、本音らしい甘すぎるセリフ。そうして俺は毎回その言葉を、しっかりと聞いている。
 その後に古泉が、何か物欲しげな顔をするのも、知っていた。

 「本当に、何だって俺なんだか」

 苦笑しながら呟けば、シャワーの音の間から「何がですかー?」と古泉の訊ねてくる声が飛んできた。
2007/09/15(Sat) 04:46:22

「俺かおまえ、どちらかが生まれてなければ良かったんだけどな」

 ゆらめきながらも不透明さを持った声で呟かれ、古泉は顔を上げた。帰り道の途中、ふらりと寄ったコンビニの中での会話にしては暗さを持ち過ぎたような会話の内容だ。首を傾げかけて、古泉は「ああ」と納得し、ほんの少し躊躇してから彼の手の中にあるものを取り上げた。銀色のパッケージに印刷してある「コンドーム」という文字をできるだけ見ないようにしながらもとの棚に何事も無かったかのように戻してしまう。
 ざわめく内心を悟られないよう、古泉は小さく息を吐いた。視線を戻せば、いつものように光の無い彼の目が自分をじっと見つめているのに気付き、にこりと笑ってみせる。

「何ですか?」

「いいや」

 ふい、と、ただ興味が無くなったのかそれとも何か意味があるのかわからないが、視線が外される。何かを言いかけた唇が心残りを示すように僅かに開き、そして閉じる。
 彼が何を言いたいのか。何を言おうとしたのか。
 (わからない筈が無い)
 棚に戻されたコンドームは変わらず鈍く光を反射している。不意にそれに手が伸ばされて、隣の彼がもう一度それを手に取ろうとしているのに気付き古泉は慌ててその手を掴む。掴まれた手首に驚いた顔をした彼は、しかしすぐに呆れた風に破顔した。

 「違えよ、明日使うんだ。切れてたしな」

 「……ああ、そう、なんですか」

 震えかけた指先を自制しながら古泉は握り締めた手を離した。骨ばった感触をコンビニの空調がふわりと拭い去ってしまったことを少し残念に思ってから、何をしているんだとため息を吐きたくなった。なったところで、浮かんでいるのは笑顔ばかりだ。
 コンドームを手にとって、羞恥の欠片も見せずにそれをレジまで持っていく彼の後ろ姿を見つめながら、古泉は背中で拳を握り締めた。ギチリと皮膚が音をたてるも、爪はその先の肉を食いちぎりはしない。
 清算を終えたのか彼が振り返り、小さな白い袋を古泉に向かって軽く振る。頷いて、古泉はゆるゆると握った拳を解き、彼の隣に並んだ。

 「明日はハルヒと会うんだ」

 「なるほど、道理で活動が休みになったんですね」

 「ああ」

 「羨ましいかぎりです」

 いつもどおりの声を出せていることを自覚しながら、古泉は笑顔ばかりを貼り付けた。隣を歩く彼のコンビニの袋がガサガサと鳴る。

 「なあ、古泉。これで良いんだよな」

 かけられた声がいつもより掠れているように思えて、古泉はパチリと瞬いた。声色の方が気になってしまったから、そのセリフの意味を理解するのに、数秒かかった。

 「これで、良いんだよな」

 気付けば彼は立ち止まっており、それに気付くのに更に数秒かかって、古泉も漸く立ち止まり振り返った。いつものように光の無い、しかしいつもより眉の根を寄せた彼が、じっと古泉の目を見つめていた。

 「何のことでしょう?」

 やはりいつもどおりの声だ。確信しながら古泉は肩を竦めた。笑えている。
 数秒、古泉の目を見つめてから、彼もまた肩を竦めた。何事も無かったかのよう足を進める。
 ガサリと、コンビニの白いビニール袋が、鳴った。














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Deracine「幸福よりも先にあなたを思って泣きたかった」

2007/09/06(Thu) 03:56:03
 最近晩飯が美味く食えない。それには、俺は古泉に嫌われているらしいことが原因している。
 そう、俺はどうやら古泉に嫌われているらしかった。しかしまだそこらへんがはっきりしないのは、古泉が俺との同居を快諾したあたりがあるからだ。
 同居は、始めてから三ヶ月程経っただろうか?
 高校の頃、今となってはすでに思い出になってしまったSOS団の頃とあまり差異無い関係性のまま、だらだらと三ヶ月。そんな中で何故俺が古泉に嫌われているなどと思い出したのか。答えは明瞭だ。
 奴は俺に必要以上に近寄らない。帰っても自室にすぐ消える。顔を合わせても最低限の会話と挨拶だけ。そして何より――……

「あいつ、俺に絶対触んねえんだよなあ」

 閑寂としたリビングに独り言が空気に溶けながら響いて、ハッと俺は我に返った。何をしているんだ俺は!
 寝そべってダラケていたソファから体を起こす。古泉のことなんざ考えてる暇はない、俺は忙しいんだ!
 何せまだ帰ってから着替えてないし鞄も放り出したままだし今日は俺が当番だから晩飯だってつくらなきゃならん、やっておかなけりゃ古泉にまた何と言われることか!
 鞄を拾い上げ上着を脱ぎながら自室に急ぎ足で向かう。帰ってきて晩飯つくってなけりゃ「やはり僕が毎日つくった方が良いのでは? お忙しいんでしょう?」などとのたまいつつあの馬鹿にしたような涼やかな笑顔で呆れたふうに肩を竦めるに違いない。忌々しい!
 上着と鞄をベッドの上に放り投げ、またリビングへ舞い戻る。窓を開ければ爽やかな夜風が俺の横を通り抜け、俺はそれを遮るようにカーテンを閉めた。それからキッチンへ戻り冷蔵庫を調べる。卵とソーセージとレタスとキャベツ、牛肉のぶつ切りに牛肉のミンチ、あと手羽先。さて何を作るか。
 明日にでも買い物に行かないとな、なんて思いながら野菜室からレタスを取り出し何枚かちぎっていく。案外あれで古泉は子供舌だからケチャップ系でまとめりゃ何も言わねえだろう、などと頭ん中でメニューを考えながらレタスをバリバリちぎっていく。
 そんなこんなしていたら玄関からガチャガチャと鍵を開ける音がして、俺はミンチを楕円形に纏める動きを止め、キッチンから顔を出して玄関を覗いた。タイミング良く扉が開いて古泉がヒョイと顔を出し、パチリと瞬いてキッチンから顔を出している俺を見つけた。

「ただいま戻りました」

「ああ、おかえり」

 いつもどおりの笑顔にヒラリと手を振ってやれば小さく会釈する。何年の付き合いだと思ってんだなんだその他人行儀さはと俺は言ってやりたくなったが、物事に波風を立てるのはあんまり好きではない。から、俺は投げつけたい言葉をぐっと飲み込んでキッチンの中に顔を引っ込めた。
 丸め終わったミンチをフライパンでじゅうじゅうやっていると、家の中だというのにやたらとかっちりした服装の古泉がひょいとキッチンに顔を出した。

「何か手伝いましょうか」

 その白いシャツが汚れても良いならな、という言葉をまた飲み込んで、俺は一度だけ頷いた。肉を焼きながら斜め後ろに立った古泉に向かって「胡椒取ってくれ」と手のひらを差し出す。

 「はい、どうぞ」

 手のひらに優しく乗せられた胡椒を握りしめて、「やっぱおまえあっち行ってろ」と言えばすんなり古泉は従った。キッチンから残像も残しそうにないくらいさっぱりと消えていく背中を何とも言えない心持ちで見つめる。
 ――胡椒の瓶なんて小さいもの、手渡す時は指先ぐらい触れても良いんじゃねえか?

「避けられてるよな、やっぱり」

 古泉には聞こえないように小さく呟いたセリフは自分でも驚くぐらいため息混じりで、だから今日のハンバーグが焦げたのは俺の所為では無く古泉の所為なのだ。とは古泉には言えずに、何とも言えない顔をしながらハンバーグを口に運ぶ古泉と一緒に俺は今日も悶々としながら晩飯を食う羽目になったのだった。
 ああ、忌々しい!
2007/08/23(Thu) 04:16:11

「古泉、俺と同居しないか」
 
 そう言い始めたのは彼の方からだった。
 それは高校卒業後、大学への入学までに空いた少しばかりの休日のうちに彼から告げられたのだった。「谷口も国木田にも断られてさ、おまえならと思ってな」何でもない顔をしながらチラリと伺うような視線を向けてきた彼に、僕は一も二もなく頷いてしまった。
 僕は彼が好きだったので。
 事後連絡になってしまいましたが、と、後から森さんに連絡すると、よくやったわ古泉とお褒めの言葉をいただいてしまった。涼宮ハルヒと違う大学に進んだ彼を監視する人間が欲しかったの、と、いつもどおりの変わらない笑顔のまま森さんに言われて、背中に冷たいものを感じながらも恐縮ですと僕は返した。温かいほほえみをいつも浮かべている彼女はやはり冷酷だった。
 とりあえず反対されなかったのは良いことだと僕は気持ちを切り替えることにして、僕は、僕らは、同居の準備を進めていった。借りたのは駅近くの2LDKのマンションで、家賃及び光熱費は(僕が全額持つと言ったのにも関わらず)(曰く、「おまえなんぞに借りなどつくりたくない」)折半することになった。僕の方が多分に家に帰る回数が少ないだろうということで、リビング隣りの日当たりの良い部屋が彼の、廊下を一つ挟んだ少しばかり日当たりの悪い部屋が僕の部屋ということになった。
 正直、僕は浮かれていた。何せ今まで近づきたくても近寄ることを許されなかった彼と一緒の家に住むことができるのだ。これを喜ばずして何を喜べというのだろうか!
 涼宮さんの観察は僕が高校を卒業する時点で僕から他の人物へ委任されていた。だから大学も涼宮さんと僕、あと彼も、それぞれ別の大学に通うことになっていた。
 ……涼宮さんと彼の関係がどうなってしまったのかは僕は何も知らない。森さんやあたらしい観察者なら知っているのだろうが、僕はもう涼宮さんのデータを機関から受け取る権利を持っていなかった。彼と同居することになって、涼宮さんと彼との関係を前情報として知っておきたいと言えば教えてもらえるのかもしれなかったが――僕はそれをしなかった。恐かったのだ。
 僕は、彼が好きだったので。

2007/08/23(Thu) 04:10:39
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