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2024/11/23(Sat) 23:15:32
 最近、古泉の家に行くことが多くなった。理由はひどく明確で、こいつは実は生活破錠者だということが先日の訪問によって知れたからだ。
 部屋が汚いというわけではない。生活臭をとことん消したらこうなるんだろうというような閑寂なリビング、まだ俺の開けたことのない古泉の自室の小綺麗な扉、何かが持ち込まれた形跡の無い台所。ショールームだと言われても納得できるかもしれない、が、それはそれで生活破錠者だ。お決まりのように冷蔵庫はからっぽで、おまえ晩飯とかはどうしてるんだと訊いたら適当に外食ですと答えやがったので、やはり俺はお決まりのように簡単な飯をつくってやったのだ。毎日外食ってリッチっていうよりはどうせ毎回一人なんだろうからちょっと目に染みるものがあるぞ古泉。
 その後もなんとなく気になって晩飯を訊けば悪びれもなく外食だとかぬかし続けるので、買い込んだ食料も勿体ないという理由もあり甲斐甲斐しく古泉宅へ足を運んでいるという日常ができあがってしまった。無駄に料理の腕前が上がっている自分が哀しい。俺はかよいづ……これ以上の明言は避けておこう。
 今日もいつものように古泉宅を訊ね、ふと気になった部屋の隅の埃に「おまえ前回掃除したのいつだ」と訊けば笑顔のまま数秒固まりやがったので掃除大会となってしまった。古泉の自室はなんとなく開けては行けないような気がして(その先における様々な可能性のバリエーションを持ちうる腐海を想像してしまったからだ)掃除は行われなかった。何故か胸をなで下ろした古泉なんて俺は見ていないぞ、見ていない。
 そんなこんなしていればあっと言う間に時間は過ぎて、夕食をつくる暇が無くなってしまった。しょうがないのでいざという時の為に買っておいた袋詰めのラーメンをゆで上げる。ぱっと茹でて粉をかけてしまえば出来上がり、という簡単なラーメンでも、古泉は実に喜んだ。いや、そう喜ばれるといつも夕食をつくっている身としては微妙な心境なんだがな。
 換気の為に開けておいた窓から冷気が潜り込んできて体温を奪っていく。ラーメンから立ち上る湯気が古泉と俺の間にあって、古泉の輪郭はぼやけていた。ずずっとラーメンをすすって、寒さの所為かずずっと鼻をすすった。古泉が。
 その顔との妙なギャップに思わず箸が止まると、俺の視線に気付いたのか古泉が顔を上げた。

 「美味しいですねえ」

 そう言って笑った古泉の顔が、いつもの薄ら寒いスマイルより少し幼く見えたのは鼻がつまっているのか些か明瞭でない発音の所為だろうか。
 なんだか平和過ぎる光景に思えて、

 「そういう顔の方が似合ってるよ、おまえは」

 そう言ってやれば、ポカンとした古泉が首を傾げて、どう頑張ってもいつもの古泉には見えなくて、伸びたラーメンを食べる結末になるとわかっていても、俺はもう笑うしかできなくなってしまった。

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2007/12/06(Thu) 00:41:28
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