「古泉、俺と同居しないか」
そう言い始めたのは彼の方からだった。
それは高校卒業後、大学への入学までに空いた少しばかりの休日のうちに彼から告げられたのだった。「谷口も国木田にも断られてさ、おまえならと思ってな」何でもない顔をしながらチラリと伺うような視線を向けてきた彼に、僕は一も二もなく頷いてしまった。
僕は彼が好きだったので。
事後連絡になってしまいましたが、と、後から森さんに連絡すると、よくやったわ古泉とお褒めの言葉をいただいてしまった。涼宮ハルヒと違う大学に進んだ彼を監視する人間が欲しかったの、と、いつもどおりの変わらない笑顔のまま森さんに言われて、背中に冷たいものを感じながらも恐縮ですと僕は返した。温かいほほえみをいつも浮かべている彼女はやはり冷酷だった。
とりあえず反対されなかったのは良いことだと僕は気持ちを切り替えることにして、僕は、僕らは、同居の準備を進めていった。借りたのは駅近くの2LDKのマンションで、家賃及び光熱費は(僕が全額持つと言ったのにも関わらず)(曰く、「おまえなんぞに借りなどつくりたくない」)折半することになった。僕の方が多分に家に帰る回数が少ないだろうということで、リビング隣りの日当たりの良い部屋が彼の、廊下を一つ挟んだ少しばかり日当たりの悪い部屋が僕の部屋ということになった。
正直、僕は浮かれていた。何せ今まで近づきたくても近寄ることを許されなかった彼と一緒の家に住むことができるのだ。これを喜ばずして何を喜べというのだろうか!
涼宮さんの観察は僕が高校を卒業する時点で僕から他の人物へ委任されていた。だから大学も涼宮さんと僕、あと彼も、それぞれ別の大学に通うことになっていた。
……涼宮さんと彼の関係がどうなってしまったのかは僕は何も知らない。森さんやあたらしい観察者なら知っているのだろうが、僕はもう涼宮さんのデータを機関から受け取る権利を持っていなかった。彼と同居することになって、涼宮さんと彼との関係を前情報として知っておきたいと言えば教えてもらえるのかもしれなかったが――僕はそれをしなかった。恐かったのだ。
僕は、彼が好きだったので。
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