案外柔らかく、熱を持ったそれで以って古泉は俺の唇に触れてくる。優しいキスは、優しいまま終わってしまう。
熱の残像を俺の薄い皮膚の表面に残しながら、ゆっくりと古泉は離れた。いつもどおりの笑顔ではない、ひどく曖昧な、解けてしまいそうな笑顔だった。それでも幸せそうでは決して無いのだ。矛盾している。
そう、矛盾しているのだった。古泉は。いや、俺は。いや、俺たちは。
「何をしているんでしょうね」
自嘲するような息を吐きながら古泉は掠れた声で言った。
それに肩を竦めて応えれば、ふふ、と、笑い声が返ってくる。それは誰も居ない教室に柔らかく響いた。
「世界を守りたいがために僕は明日も明後日も明々後日も戦う覚悟なんてとっくの昔にできている」
独白のように長いセリフだった。似たような言葉は何度も聞いたので、俺は欠伸が出そうになったのを少し堪えた。
机に寄りかかればガタンと音がした。
「あなたは普通の幸せが欲しい、と」
気付けば俯いていた古泉の、その表情は今や影になってしまって良くわからない。声色は全く変わらないが、見えない表情が一体全体どうなっているのか俺は少しばかり興味を持った。
こんなことを話している古泉の顔は、以外にも笑顔なのだろうか? それとも俺の期待どおり、暗い表情をしているのだろうか?
その長い前髪を掴み上げて、顔を上げさせたい衝動に駆られながらも俺はそれをしなかった。してしまえば、何らかが確実に壊れてしまう気がしたからだ。
そしてその壊れ行く何かは、古泉の言葉の後に確実に、音をたてて崩れていく。
「随分と奇妙なことをしている、ぼくたちは」
崩壊は望んで居ないくせ、それを増徴させるセリフを吐いて、古泉は顔を上げた。そこにはいつものとおりの笑顔があって、俺は少しばかり落胆する。
「帰りましょうか」
ガタン。足か何かが当たったのか、机が大きく音をたてた。古泉はそれにビクリと体を震わせて、それからヤレヤレといった様子で肩を竦めた。
何でそんな似非外人かぶれな動きが似合ってしまうのか、その理由は俺には全くもってわからなかったが、しかしこれだけは言える。
「俺はおまえを攻めないぞ、古泉」
今にも丸まりそうな背中に向けてそう言ってやれば、教室の扉へ向かっていた古泉の動きはピタリと止まった。それから震えるような声で「すいません、用事を思い出したので、先に行ってください」と支離滅裂な事を言い始めたので、俺は古泉が次にどう動くのか気になって、その丸まりそうで丸まらないまっすぐ伸びた背中をじっと見つめていてやることにしたのだった。
(足を引っ張り合ってるくせに、今にも解けそうなそれを、解かないでいるんだから)
(馬鹿な話だ)
Tagtraum (
白昼夢のあと )
http://ee.uuhp.com/~goodby/
free log より「僕たちは靴の紐で繋がる」
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うちのキョンは攻めっぽいなオイ。
願う先と求めるものが矛盾してる古キョンが印スピレーションで溢れてきたのでもにゃもにゃ。
もにゃもにゃしたまま書いたらわけのわからないことになりましたすいません。
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